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なぜAppleやBMWは「音」に投資するのか
グローバル企業のソニックブランディング成功事例分析

グローバル企業のソニックブランディング成功事例分析

広告費は年々高騰し、どの企業も「どうすれば少ない予算で憶えてもらえるか」という問いに直面しています。その解を、世界時価総額の頂点に立つAppleや自動車の巨人BMWは、映画音楽の巨匠を起用してまで「音」に求めました。理由は単純です。音は使い捨ての費用ではなく、時間とともに認知を積み上げ複利で効く資産だからです。ある広告効果の分析によれば、オーディオ資産は視覚資産より3.44倍効果的に高パフォーマンス広告を生みます。それにもかかわらず、音を組み込んだブランド資産はわずか8%。認知獲得コストを下げたい企業にとって、ここは競合がまだ手をつけていない明確な競争優位の領域です。

なぜ「広告費をかけても憶えられない」のか

この「資産性」は数字で裏づけられます。ソニックブランドキュー(ブランドを想起させる音)は、高成績の広告に8.53倍も多く出現することが分かっています。音は当たり外れの装飾ではなく、成果を出す広告に共通して組み込まれている勝ちパターンなのです。にもかかわらず市場の大半がまだ手をつけていない今なら、音への投資はそのまま競合との差別化——すなわち認知獲得コストの低減——に直結します。

当社の、データと心理学に基づいたユーザーの感情・行動データ分析モデル「SoundGovernance」は、あらゆる音を感情価(心地よさ)と覚醒度(高ぶり・落ち着き)の2つの軸で捉え、それぞれ4項目・計8項目で数値化します。グローバル企業の「音への投資」とは、この座標上で自社ブランドを狙った方向へ正確に配置する行為に他なりません。本稿は、その主軸を静かで上質な方向に置き、そこから他の方向へ接続して読み解きます。

Apple ―「引き算」で洗練を鳴らす

Appleのサウンド設計思想を一言で表せば「ミニマリズムとエレガンス」です。Mac起動音は、サウンドデザイナーJim Reekesが両手を最大に広げて弾いた協和的なメジャーコードを原型とし、1997年に復帰したSteve Jobsが全機種でこの一音に統一しました。iMessageの送信音、AirPodsのペアリング音、Apple Watchのクリックに至るまで、音は「控えめ・洗練・直感的」であることを絶対条件とします。

これはSoundGovernanceでいう静かで上質な方向そのものです。緩やかなアタック、協和した上質な音色、静穏で落ち着いた響きは覚醒度の低さを、削ぎ落とされた知性は先鋭さを示します。派手さで注意を奪うのではなく、「引き算」で品位と知性を鳴らします。落ち着いていて先鋭なその音は、製品のミニマルな造形と完全に一致し、ブランドの世界観を一秒で証明します。

BMW ― 静かで上質な基調から、先進性へ振る

BMWは、グラミー賞とアカデミー賞に輝く映画音楽家Hans Zimmerを「BMW IconicSounds Electric」の公式コンポーザー兼キュレーターに起用し、音響エンジニアRenzo Vitaleと共にi4・iX・Mモデルの駆動音を設計しました。動機は逆説的です。EVの静粛性は利点ですが、運転席に感情的体験の空白を生みます。そこで音を「運転者と車の絆」を取り戻す実用的な手段として設計したのです。

一流作家の作家性という先鋭さで、BMWはブランドの基調音を静かで上質な方向に据えます。同時に、ギター弦を弾かず引きちぎる、物を壁に投げつけて偶発音を探すといった技巧的・実験的な手法は、Mモデルにおいて先進的で刺激的な方向へと音を振り分けます。落ち着いた上質さと高ぶる斬新さを一台の中で往復させます——これは狙う音を意図的に設計している証左です。ラグジュアリー自動車が管弦楽的要素と洗練された和声でプレミアム性を伝える潮流とも一致します。

Mastercard・Intel・McDonald's ― 目的で正解の音は変わる

静かで上質な方向が唯一の正解ではありません。投資すべき音の方向は、業態と目的で変わります。Netflixの3秒の「Ta-Dum」(Lon Bender制作)が示すように、鋭いアタックで高ぶりを生むキューは視聴前の「期待」を条件づけます。いずれも、狙う方向が違えば音の作り方も反転するという原則の証明です。

  • Mastercard=落ち着いて安心できる方向:ソニックアイデンティティ導入から12か月以内に、77%が「より信頼できる」と回答しました。決済音とアニメで安心感は3.4倍、78%がその音を好み、80%がその音を使う加盟店へ再来しやすいと答えました。
  • Intel=先進的で刺激的な方向:Walter Werzowaが1994年に作った5音の「Bong」は、短く鋭いアタックと明瞭な高域で先進性を鳴らします。正規の音色なら誤音を混ぜても100%が正しく認識、ヴァイオリンでは80%にとどまりました。
  • McDonald's=明るく高揚する方向:2003年開始の「I'm Lovin' It」は明るくアップビートに高揚を誘う音の体現。導入年の売上は米国で6.8億ドル、世界で18億ドル増加し「数十億ドル規模の資産」と評されました。

結論 ―「良い音」ではなく「正しい方向の音」に投資する

Apple、BMW、Mastercard、Intel、McDonald's、Netflix。彼らが投資しているのは、漠然とした「良い音」ではありません。自社のブランドと業態が立つべき方向——静謐と知性で憧れを生む音か、先進性で話題を作る音か、安心で選ばれる音か、高揚で背中を押す音か——を見定め、その方向へ音を正確に配置しています。一貫したソニックアイデンティティを持つブランドは96%の音声認知を得る一方、戦略なきブランドは7%にとどまります。問うべきは「どんな音が格好いいか」ではありません。「自社のブランドはどの方向に立つべきか」です。音は、その答えを鳴らすための最も費用対効果の高い資産なのです。

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